近代の建築は装飾を排し幾何学をベースに限られた要素でシンプルな形態を旨としてつくられてきました。
それまでの装飾過多な建物からすれば、それらはとても新鮮に映りましたが、けれども時代を経るにつれ単調さ・味気無さを感じ始める人々も多く、現代では建築の表現も非常に多様なものとなり、過去の洋式建築も新たな目で捉えられ、近代建築の見学ツアーなどが昨今大盛況なのは皆様ご存知の通りです。
下の建物は大阪淀屋橋にあります「大阪倶楽部」という建物です。大正13年完成、設計は安井武雄です。大正モダニズムを体現する名建築で、その落ち着いた外観は街に潤いと深みを与えています。この外観に大きく寄与していますのが全面に用いられたタイルですが、この色幅のあるタイルの用い方に眼を奪われます。窓上部アーチ内の矢筈張り、通りに面したアーチ内では市松に張り交差部には突起を設けています。
もう一例、これは兵庫県西宮市にあります神戸女学院大学の校舎で、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計によるものです。全く単一のタイルながら、この自由な張り方!素材を限りながらも単調さや禁欲さに陥らず、とても豊穣な表現をなっています。
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あるお住まいで外壁全面にタイルを張ることとなりました。道路に沿って建つ車庫の外壁には特に窓もなく、ともすれば単調で退屈なものとなりがちです。その壁面を喧噪な表現とせず控えめながらも潤いある表情を持たせたい・・・
こんな時こそ歴史が先生です。
優れた先例に倣ってタイルの色や種類の多様さに頼るのではなく、けれども歴史的様式的にもなり過ぎず、今現在の住まいとして、タイルの張り方でひっそりと静かな表情を生み出すことを目論んでみました。
上記の名品に並べて自作を掲げるのはいささか憚られますが、声を大にしない飾り というものに私は憧れてしまいます。