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施主と建築家01

北野彰作建築研究所

三十年以上も事務所を運営していると、小さな案件を含めれば、百件前後のお施主さんとの出会いがこれまで有りました。色んなタイプのお施主さん達、そのうちの典型例を三回に分けてご紹介、今回はその1回目です。如何に建築ってお施主さんから生み出されているかをお話ししたく思います。

ちょうど十年前の2007年に竣工した【京・竹屋町の家】は重量鉄骨造3階建て、築二十五年後の全面リノベーションという内容です。お施主さんは弊事務所の営業担当だった大阪ガスの社員さん。長年のお付き合いでお互い気心も知れていて、担当している沢山の設計事務所から小生を選んでいただいたのも、気難しい父親を相手に波風立てずに進められるのは小生が適任と判断した、とは竣工してからの彼女の後日談。

しかし実際お会いしてみると確かに芸術家特有の取り付きにくさは有りましたが、友禅の絵付師としての仕事を生涯されていて、アトリエに入らせて貰って、その見事な日本の伝統工芸技術を拝見しているうちに、すっかり彼の虜になってしまいました。学生時代、自身が絵の道を断念したことも有って、長年生業とされてきた事に無条件に感動したものでした。

大金を投じる施主さんと託された建築家のと関係は、虚心坦懐に懐に此方の方から飛び込まなければ仕事の端緒にすら付けないものなのです。

別のお施主さんの話、ビルやマンションを多数お持ちのオーナーさん、川の流れる500坪の宝塚の敷地に建つ数寄屋建築のご自宅をリノベーションする仕事の時は設計の打ち合わせは半時間以内、残りの二時間は会社の理念や自らの生き様を毎回滔々と熱く語られました。暴力団の巣と化していた荒れ果てたビルを購入した時は、弁護士を付けず単身乗り込んで結局、一人残らず追い出したという豪快な逸話は任侠映画でも観ているような格好良さ、男としてシビれながら聴かせて貰ったものでした。

今から思い返せば設計の細かいところはプロに任す、ワシ、北野さんのこと信頼しているから好きな様にやりょ、との意味だったとは竣工後に開催してくれた竣工パーティーの席上でのお言葉。

話を元に戻して京都のリノベーション、設計がほほ終わった段階でお父さんが打ち込まれた仕事の『証』のようなものを何処かに表現できないかと悩んだ挙句、4枚建ての縦格子戸を入れました。当初は其れで良しと思ったものですが解体が始まった頃に、天井に小さな角材を並べてみたらどうだろう、とアイデアが浮かびモダンな和天井の図面とパースをお父さんに観てもらった瞬間、これは面白いと即決で追加見積もりを了承してもらいました。

それが【ルーバー天井】の始まりです。当時は二段構成、「雇いザネ」で上下のズレを防ぐという面倒なディテール。監督さんと大工さんとの共同作業で美しく造ってくれました。出来上がりを見てお施主さんのお父さんも大喜び。以降、弊事務所の標準ディテールとなりました。

あの時もし受け入れて下さらなかったら、或はそもそも彼女との出会いが無ければ、以降のデザイン展開は随分違ったものになったであろう、とのであります。

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