日本の住まいを特徴づける 紙障子 について今回は書いてみたいと思います。 柱と梁で構成される日本の住まいでは、その木材の間を埋める 「間戸」 が様々に発展しましたが、なかでも空気を遮断しつつ室内に光を取り込むために和紙を張ってつくられた建具が紙障子です。ガラスが使われるようになってからも、柔らかな光を室内にみちびき、一方では視線を遮る紙障子は、現代でも優れた建具として私も好んで使用しています。また、ガラスを組み込んだり一部をスライドさせ雪見障子・摺上障子など、外の景色を楽しむ仕掛けとしたものもあります。 そんな優れた紙障子ですが、現代の生活様式には合いづらいところがないわけでもありません。 例えば ・古くから様々な組子の意匠が考案されてきましたが、凝ったものは高価になりがち ・和紙一枚では断熱効果が不足し 冷暖房効果が損なわれる ・細い桟は壊れやすく 和紙は破れる ・桟にはほこりがたまりやすく お掃除が手間 けれどもあまり凝った桟組みはお茶屋風にもなり兼ねません。幾何学的な桟組みをもちいれば現代的なデザインとなります。 そして片面のみに和紙を張るのではなく桟の両面に和紙を張ることで、断熱効果とほこり防止の一挙両得となり、加えて建具自体の強度も上がります。破れを梅鉢型などの紙を貼って補修する知恵も好きなのですが、近年では破れにくい高強度和紙も出ています。 伝統と現代とを合わせ、例えば私はこのような紙障子を用いてみました。
壁・天井ともに和紙張りで一切木材を現していない和室の紙障子です。 細かく縦桟を組んだうえに両面から和紙を張っています。 一部を片面のみの和紙張りとすることで凹凸と紙の濃淡による表情が生まれました。 さらに部分的に柔らかな色調の色和紙も用いています。
古民家の再生の例では、壁に黒漆喰を塗った薄暗い玄関と居間との間に紙障子を用いて、光が玄関にも導かれるようにしました。 ここでも和紙を両面から張っていますが、所々を玄関側のみ、あるいは居間側のみ、としてどちらもが表の顔を持つようにしています。白黒のはっきりした禁欲的な空間に対して、紙障子では片面張りのところには多少はっきりした色和紙を用いて、色気を醸し出しています。塗装とは異なり、和紙の色は原色に近いものでも嫌みがありません。
これは別の古民家再生の例です。
古民家といいますとどうしても薄暗さがあります。この食堂では屋根にガラス瓦による天窓を設けて天井裏を陽光で満たし、天井全面を紙障子張りの光天井として室全体に柔らかく光が降り注ぐようにしています。現しの梁の丸太の力強さが強調されるよう、紙障子の桟は極力繊細に細くしています。
* * * カラッとした空気に照りつける光と影の明暗がはっきりした西洋に、明晰で理知的なガラス。 湿度が多く深い軒がつくる陰で境界の曖昧な柔らかな光の日本に、情感あふれる和紙。 気候風土に根付いた紙障子ですが、現代の住まいにとってもとてもモダンな可能性に満ちています。
紙障子のある暮らし 柔らかな光に満ちた住まい を楽しんでみませんか?